乳牛でも肉牛でも生産性の高い牛に育てるには、子牛の時からの体作りが大切です。哺乳時のミルクの温度管理は子牛の消化生理や下痢症予防にはとても重要なポイントです。また、飼養形態に適した哺乳、正しい哺乳を行って、与えている代用乳の効果を最大限に活かし、健康な子牛を育成しましょう。
(1)pH
子牛は第一胃のが未発達で、給与されたミルクは第四胃で消化されます。生後3~4日で胃酸が分泌されるようになると、子牛の第四胃のpHは2.0程度になり、ミルクを給与するとpHは一気に6.0まで上昇します。そこから胃酸が分泌されて消化が進むと、徐々にpHが低下し、給与してから6時間後には元のpH2.0に戻ります。
胃酸にはミルクの消化だけではなく、胃の中を酸性にすることによって、口から入ってきた細菌を死滅させるバリアとしても機能しています。
(2)カード(凝乳)の形成
胃酸にはペプシンという蛋白質分解酵素が含まれており、ミルク中の蛋白質であるカゼインと反応して凝固し、カード(凝乳)を形成します。ミルクが正常に消化されるためには、まず第四胃内でのカード形成が必要です。いい状態のカード形成させるには第四胃のpH が速やかに下がる事が重要です。
(1)全乳
子牛の本来の哺乳形態である牛乳(全乳)を給与する方法は現在でも行われています。全乳には抗菌物質が含まれており、消化器官に細菌が流入するのを防ぐ働きがあるため、胃酸の分泌量が少ない生後2~3日は全乳を給与することが薦められています。ただし、衛生管理が難しい側面があるため、パスチャライザーや代用乳の利用も進んでいます。
ミルクの主な成分栄養素は大きく乳糖、乳脂肪、乳蛋白に分けることができ、乳糖、脂肪は体のエネルギー源となります。特に乳脂肪は、乳糖や乳蛋白と比較して2倍以上のエネルギーがあり、子牛の栄養源となりやすい特長があります。また、乳蛋白はからだや筋肉などを作る役割があり、素早く吸収されるホエー蛋白とゆっくり吸収されるカゼイン蛋白の2種類が含まれています。第四胃の中でカードを形成するのは、このうちのカゼイン蛋白です。
(2)代用乳
代用乳は古来は脱脂粉乳が用いられてきました。脱脂粉乳とはバター製造のために全乳から脂肪分を取り除いたものです。そのまま子牛に給与するとエネルギーが低くなり発育が劣ります(図2)。現在は栄養価を全乳に近づけるために、脱脂粉乳にタロー(牛脂)やラード(豚脂)などの動物性油脂や、ヤシ油などの植物性油脂を、乳化剤とともに添加して代用乳とするようになってきました。
近年は脱脂粉乳の代わりに乾燥ホエーを使ったり、ヒトのダイエット食品としても注目されている中鎖脂肪酸(ラウリン酸やカプリル酸など)を添加した効果なども提案されています。
(1)代用乳の種類
現在出回っている代用乳のタイプは蛋白と脂肪の含有量(%)で次の3パターンに分けられます。
■代用乳のタイプ
A…高蛋白・高脂肪タイプ
B…中蛋白・中脂肪タイプ
C…高蛋白・低脂肪タイプ
・1日2~3回の場合:手哺乳で1日2~3回哺乳している場合は、BまたはAタイプの代用乳が使われます。通常時はBタイプを給与し、冬季になり子牛のエネルギー要求量が増えたときは高脂肪タイプに切替えるなど、組み合わせて使用することもあります。
・1日3回以上、またはロボット哺乳の場合:多回哺乳が可能な場合はCタイプが使われています。高蛋白質の代用乳給与は子牛の増体や飼料効率が改善されるだけでなく、体脂肪を減らし、体蛋白質を増やす効果があります。また低脂肪の代用乳給与により体脂肪を減らす効果が認められています。
(2)代用乳の温度
・代用乳の適温
子牛がミルクを飲む時の最適な温度は、本来の母牛の体温に近い温度39~40℃です。
通常はこの温度で給与するために、外気によりミルクが冷める事を考慮して溶解時には高めの温度のお湯を用意します。一般的には、夏季は約45℃、冬季は約50℃のお湯に溶かします。
・ミルクの温度が低いと
哺乳後は第四胃内のpHが上昇するため、普段の状態に比べ感染リスクが高まります。哺乳後に早くミルクを消化させ、なるべく長くpHが低い状態を保つことが健康な子牛を育てるポイントです。温度の低いミルクを給与すると、哺乳後の第四胃のpHの回復に影響が出ることが報告されています(図2)。カード形成が遅れるとともに、細菌が生存する時間も長くなり、下痢のリスクが高まります。
特に、代用乳を融解してから給与するまでの時間が長いとミルクの温度が下がりやすくなるため、哺乳頭数が多い牧場で手哺乳する際には注意が必要です。
また、前項で書いたように代用乳の脂肪分は本来の牛乳中の脂肪と異なり、植物性油脂で充当されることがあります。うまく撹拌しないと不溶解の「ダマ」ができやすく、子牛の消化障害の原因になるので注意が必要です。
・ミルクの温度が高すぎると
代用乳を60℃以上の高温で溶かすと、代用乳中の蛋白質が変成して消化が悪くなることがあります。そのため、お湯の温度の上限にも気を配る事が大切です。ミルク融解時や哺乳時の温度は、「指を入れた温度感覚」くらいで計る事が多いと思いますが、時々は融解時に温度計を差し入れて確認して下さい。
図2.牛乳と代用乳材料の成分の違い(風乾物%、日本標準飼料成分表ほか)