昔は子牛を分娩すると1日から2日くらいは母牛に付けて自由授乳させることも多く、少頭飼いの和牛農家は今でも数ヶ月~半年くら自然哺乳させている牧場も多いかと思います。
近年、酪農では分娩直後に親子分離して、出荷停止期間中の全乳(移行期乳)や代用乳で人工哺乳することが当たり前になっています。酪農家で受精卵移植によりホルスタイン種から生まれた和牛子牛や、大型の和牛繁殖農家でも分娩直後の親子分離や、短期間同居のみで親子分離して、人工哺乳に切り替える事が増えてきました。
そもそも子牛を自然哺乳させた場合は1日の哺乳行動はどのようになっているのでしょうか(表1)。特に和牛子牛について一日あたり何回哺乳するのが良いのか試験研究が行われてきました。
哺乳回数については個体差が大きいようですが、分娩後1~2週間は10回/日前後と比較的多くなる傾向があり、それ以降の数カ月は5~6回/日程度で持続するようです。これらの自然哺乳での行動調査から、人工哺乳の場合でも概ね5~6回/日で哺乳できれば子牛の消化生理に沿った哺乳だと言えそうです。
前述したとおり、子牛の自然哺乳に近い形を再現しようと思うと従来の「手やり哺乳」では1日5~6回の哺乳作業は労力的に難しいと言えます。しかし、哺乳ロボットを活用するすることで、多回数哺乳を現実的なものにできます。特に、ホルスタインの子牛と比べて、体格も胃も小さい黒毛和種の飼育では、1回の哺乳量を少なくして多回数哺乳(チビチビ哺乳)できれば消化器官に負担をかけずに育てることができます。
哺乳ロボットのメリット
・労力をかけずに多回数哺乳ができる
・常に一定のミルクの濃度、温度を保てる
・日齢や増体に合わせて、哺乳プランを立てて可変できる
・データで哺乳履歴を飼養管理にフィードバックできる
・自動洗浄機能があり、哺乳ビン等の洗浄が不要
哺乳回数や1回当たりの哺乳量を自由に設定できる哺乳ロボットでは、子牛の生育に最適な設定を模索する試験が行われてきました。
1.宮崎県畜産試験場で行われた試験
試験区は、2~9日齢の子牛に対し同一量の代用乳を1日3回に分けて給与する区と、1日6回に分けて給与する 2区に分け、それぞれ12週間給与して、一日の増体量と体重の増加具合を比較します。
その結果、6回給与区の方が1日の増体量も、最終的な体重も多くなりました。
また、図3は各区で人工乳を含む飼料摂取料の推移です。3回給与区よりも、6回給与区の方が人工乳の採食量も多いことが分かります。 哺乳量は2区で同一にもかかわらず、哺乳回数を増やしただけで飼料摂取量が増えたのは、子牛が哺乳ロボットにアクセスしたついでに人工乳も摂取することによります。また、哺乳回数が増えて一回の哺乳量が少なくなった分、満腹感が少なく、固形の人工乳に食いつきやすいとも考えられています。
2.福島県畜産研究所での実験
3つの試験区は1日の哺乳回数と哺乳量で差がついています。1区は1日4回哺乳で1L、2区は1日8回哺乳で0.5L、3区は1日8回哺乳でミルクの給与量が他の区より2倍としています。60日齢時の体重と、胸囲、腹囲、胸囲・腹囲比を比較した実験です。
結果として、哺乳量が多い3区は、代用乳の摂取は増える反面、人工乳の摂取は減少する結果になっていました。60日齢までの増体量は良いものの、腹囲が小さく第一胃の発達が遅れている懸念があります。
また、哺乳回数を8回とした2区と3区では、1日の哺乳量が予定量まで達しない「飲み残し」の回数が1日4回哺乳の1区より増えていることが分かります。
これらの事から、いたずらに哺乳回数や哺乳量を増やしても、総採食量の増加や離乳後のルーメンの発育や採食量の増加に結びつかないことが見て取れます。哺乳ロボットでの自動給与を行う場合は1日4~6回が適正哺乳回数だと思われます。以下に、宮崎県畜産試験場(1日6回給与)と家畜改良センター十勝牧場(1日5回給与)の給飼モデルを示しておきます。
北海道大学獣医学部予防治療学修士課程修了後、長野県畜産試験場酪農部で18年間「乳牛の飼養管理に関する試験研究」に従事。その後、長野県畜産試験場場長として試験研究を総括。平成26年よりオリオン機械㈱の顧問となる。
この記事は2016年4月号デーリィアイテムカタログの内容を引用したものです。