近年は気候変動の幅が大きくなり、北海道でさえ真夏日が続くことが珍しくなくなってきました。
牛の第一胃(ルーメン)は消化を助ける微生物の働きによって巨大な発酵タンクのように働き、常に腹の中から発熱されています。そのため牛は暑さに弱く、暑熱ストレスによって採食量が減少し、結果的に乳量の減少などを引き起こします。
乳牛の暑熱対策を考える際は、まず送風や細霧など施設面からの対応が重要になりますが、今回は飼料給与の面からの対応を整理してみます。
牛の反応は呼吸数の変化が一番早くて19℃くらいから増加します。次いで採食量の減少は21℃から、それに伴う乳量減少は22℃を越える頃から始まると報告されています。
牛は搾乳直後の1時間以内に1日の大半の飲水を行うといわれています。この時間帯にすべての牛が十分水を飲めるような給水装置が必要です。フリーストールの場合は状況によっては臨時水槽の設置も考えましょう。
飼槽の清掃はこまめに行い、場合によっては汚れが付きにくい飼槽への改善が必要です。また、サイレージの取り出しも断面をできるだけ小さくするように心がけます。
飼料は少量多回給飼にしたり、エサ寄せ回数を増やす事で採食意欲を促します。また、夕方の給飼量を増やして涼しい夜間の採食を確保するようにします。それでも採食量は低下しがちになるので、糖蜜添加で飼料の嗜好性を上げたり、脂肪添加でエネルギー濃度を上げる工夫をします。
粗飼料割合が多過ぎると反すう・咀しゃくが盛んになり体温上昇しやすくなります。逆に、粗飼料の下限量を下回って濃厚飼料多給になるとルーメンアシドーシスを起こすので、高消化性繊維を含む良質粗飼料で必要な繊維の下限値を維持するようにします。TMRの場合は、粗飼料の細断長が長くなり過ぎないようカッターの刃を整備して下さい。アシドーシスが懸念される場合は「重曹」などのバッファー添加が重要となります。
発汗と排尿量の増加でミネラル分である、カリ(K)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)などが損失します。ミネラルの粉剤単独の補給などは嗜好性が悪いものも多く、糖蜜などを賦形(ふけい)剤にして固形化した製品を利用すると便利です。盛夏が過ぎてからも9月、10月ごろは夏疲れが出てくるため、糖蜜は嗜好性向上の他にルーメン内微生物への即効性エネルギー補給の役割もあり効果的です。
夏場は暑熱の影響でルーメン内微生物の中で重要な「原虫(プロトゾア)」の数が減ると言われており(第4図)、糖蜜固形飼料を牛が定期的に少しずつ舐めとることでルーメン微生物の活性化効果も期待できます。
第1図:日平均気温と乳量(2001年 中井文徳ら 四国農業研究成果情報no.48)
第2図:日平均気温と採食量(2001年 中井文徳ら 四国農業研究成果情報no.48)
第3図:飼料中の繊維含量が採食量(DMI)と乳量に及ぼす影響(吉田宮雄 「高泌乳牛の上手な飼い方(II)」中央畜産会 生産技術セミナーNo.135)
第4図:季節別におけるプロトゾア数の変化(雪印種苗北海道研究農場)( 古川 修 暑熱期の栄養ならびに飼料給与管理 牧草と園芸Vol.56 no.4 2008)
北海道大学獣医学部予防治療学修士課程修了後、長野県畜産試験場酪農部で18年間「乳牛の飼養管理に関する試験研究」に従事。その後、長野県畜産試験場場長として試験研究を総括。平成26年よりオリオン機械㈱の顧問となる。