採食時間が変化する5つの要因と、それがカウスカウトのデータにどのように表れるかを説明します。
採食量低下の要因は飼料側と牛側の両方にありますが、TMR飼養になっている現在、飼料側の要因による影響は牛群全体に及ぶため、カウスカウトのデータを見るまでもなく、飼槽の残飼状況から明らかに発見できます。
第4胃変位などの場合、予兆として食欲不振をくり返すこともあり、『採食時間データの周期的変動が大きい牛は注意して見る』必要があります。
下痢についてはウイルス性の伝染性下痢以外は極端な食欲不振は見られないことが多いので、採食データだけでなく牛の排便の状態確認も大切です。また、コロナウイルス (※新型コロナウイルスとは異なります。)など伝染性下痢の場合はあっという間に牛群全体に広がることが多いので、畜舎防疫体制には常日頃から注意したいものです。
牛群内の闘争や発情のスタンディングなどでのケガ以外に、蹄の病気により歩行が困難になった牛は、『飼槽までのアクセスに時間がかかり、結果的に採食データの低下』を招きます。このような牛は速やかに病牛房に移動しましょう。
さほど泌乳量が多くなかった昔の牛は、発情がくると1日中鳴きわめき、食欲が極端に低下したものです。近年の高泌乳牛はむしろ発情が微弱すぎるくらいで、採食量は目に見えるほど低下しないかも知れませんが、以下のグラフのように『発情サイクルで活動量が増加するのに反比例して採食時間が低下』するのが分かる個体もあります。
特に初産牛などで牛群間を移動した場合、その個体は極端なストレスに見舞われ、思うように飼槽を確保できないことがあります。その場合は、牛群内の社会的順位の高い牛が食べ終えた頃、残飼をあさるように採食するためか、『採食時間はむしろ長くなる傾向』があります。カウスカウトでの群及び個体の採食時間のグラフは以下の通りです。
図6は酪農学園大学における産次毎の採食時間ですが、産次が進むほど採食時間が短くなっています。
根釧農試での農家調査でも群の中で初産牛の採食時間が長く、特に飼槽幅にゆとりのない農場ほど、産次数の少ない牛は高産次牛に比べ食べ負けてしまっている様子がうかがえます。
この事を図2のタイムテーブルで見ると、給飼直後のラッシュアワーが終わった後で初産牛が食べている様子も分かります。
例えば、カウスカウトでは採食時間帯も表示されますので、採食時間が長い個体で、図2を参考に社会的順位が低くて、皆と一緒に採食できていない牛かどうかも判断ができます。もし、このような牛の個体数が多ければ、飼槽スペースを改造したり、TMR給飼量を増やしたりして採食不自由な状態を軽減する必要があります。
①森田 茂ら 家畜管理学会報 2013年 49巻 1号 p. 34- フリーストール牛舎における乳牛の採食行動の個体特性と飼槽利用位置
②堂腰 顕1999年北海道立農試集報 77号 p. 45-48 短報 フリーストール牛群の飼養管理と乳牛行動
北海道大学獣医学部予防治療学修士課程修了後、長野県畜産試験場酪農部で18年間「乳牛の飼養管理に関する試験研究」に従事。その後、長野県畜産試験場場長として試験研究を総括。平成26年よりオリオン機械㈱の顧問となる。