酪農機器の洗浄は、衣類や食器の洗浄とは大きく違います。衣類や食器の洗浄は汚れたものを落とすために行います。また、食器などは手作業で物理的に擦って汚れを落とします。
しかし、搾乳機器の内部を手でブラッシングすることはできません。したがって汚れの成分に合った、また水質に合った洗剤を選出することが重要です。牛乳は細菌が最も増殖しやすい食品の一部です。汚れがついてから洗浄を行うのでは、細菌の増殖に繋がります。正しい洗浄で高品質の生乳を生産しましょう。
細菌は『水分』、『温度』、『栄養分』の3つの条件があると増殖します。特に、搾りたての生乳は細菌の増殖条件を兼ね備えていて、汚れている器具で搾乳すれば細菌の増殖に最適な条件を与えることになり細菌数の爆発的な増殖につながります。
細菌の増殖条件 | 細菌の増殖に適正な条件 | 生乳の状態 |
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水分 | 80%以上 | 87% |
温度 | 30℃以上 | 37℃ |
栄養分 (主成分) | 十分 | 乳糖 脂肪 たんぱく質 (十分) |
細菌は水分、温度、栄養分の3条件が揃うと、1個の細菌が10時間後には100万個以上に増殖します。そのため正しく洗浄と殺菌を行い、あらかじめ細菌の数を極力減らした状態で搾乳に臨むことが重要です。
生乳中の水以外の成分は右の図のようになります。生乳中の最も高い割合を占める『乳糖』は水で洗い流すことができます。それ以外の脂肪やたんぱく質、灰分(カルシウム、マグネシウムなど)は洗剤を使用して落としていきます。
洗剤の種類は、『アルカリ性洗剤』、『酸性洗剤』、『中性洗剤』の3種類です。
中性洗剤は家庭用の油性分の除去には適していますが、生乳の高脂肪・高たんぱく質・灰分の除去には効力が発揮しません。また、中性洗剤は泡切れが悪く『すすぎ』に大量の水が必要です。さらに洗浄中泡立ちが激しく、真空ポンプまで達し、故障原因にもなる危険性がありますので、使用しないでください。
汚れの成分に適さないpHの洗剤投入するとどうなるのかを比較した実験です。スキムミルクを溶かした溶液と灰分を溶かした溶液を用意し、それぞれにアルカリ性洗剤と酸性洗剤を投入して反応を比較しました。
スキムミルクにアルカリ性洗剤を投入すると分解します。しかし、酸性洗剤にスキムミルクでは乳中のカゼインたんぱく質が反応して凝固します。また、灰分の溶液にアルカリ性洗剤を入れても変化はありませんが、酸性洗剤を投入した場合は分解します。洗剤の種類によって分解できる成分が異なることがお分かりいただけると思います。